フレックスタイム制は、従業員が主体的に働く時間をコントロールできる柔軟な制度ですが、その分、従来の固定時間制とは異なる勤怠管理の知識が求められます。管理担当者がまず理解しておくべき、制度の基本構造と時間帯の考え方について解説します。
フレックスタイム制の最大の特徴は、一定の期間内で決められた総労働時間の範囲内であれば、その日の始業・終業時刻を従業員自身の決定に委ねる点にあります。これにより、業務の繁閑やプライベートの予定に合わせて、日々の労働時間を調整することが可能になります。
この制度を運用する際、一般的に1日の労働時間は以下の2つの時間帯に区分されます。
コアタイムを設けることで、会議やチーム業務の連携がスムーズになります。一方で、コアタイムを全く設けない「スーパーフレックスタイム制」も存在し、より自由度の高い働き方として導入する企業も増えています。自社の業務内容に合わせて、適切な時間帯区分を設定することが勤怠管理の第一歩です。
通常の労働時間制では「1日8時間」を超えたかどうかが残業の基準となりますが、フレックスタイム制では考え方が異なります。勤怠管理の単位となるのは、「清算期間」と呼ばれる一定期間(通常1ヶ月、最長3ヶ月)です。
企業は、この清算期間全体で労働者が働くべき時間である「総労働時間(所定労働時間)」をあらかじめ定めます。従業員は、期間内の実労働時間の合計がこの総労働時間を満たすように、日々の勤務時間を調整します。
したがって、ある1日の労働時間が短くても、別の日に長く働くことで帳尻を合わせれば、遅刻や早退といった控除の対象にはなりません。管理者は「日々の遅刻・残業」ではなく、「期間トータルでの過不足」に注視してマネジメントを行う必要があります。
フレックスタイム制を導入した際、給与計算担当者が最も注意しなければならないのが「時間外労働(残業)」の扱いです。従来の労働時間制とは判定基準が大きく異なるため、正しいルールを理解しておく必要があります。
通常の労働時間制度では「1日8時間、週40時間」を超えた時間が残業となります。しかし、フレックスタイム制では、特定の日や週に法定労働時間を超えて働いても、直ちに割増賃金が発生するわけではありません。
フレックスタイム制における時間外労働は、「清算期間における総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えたかどうか」で判定します。つまり、ある日に10時間働いたとしても、別の日で調整し、期間全体の実労働時間が法定の範囲内に収まっていれば、法的な時間外労働には該当しないのです。
では、残業発生のラインとなる「法定労働時間の総枠」はどのように算出するのでしょうか。これは、週平均40時間制を採用している場合、以下の計算式で求められます。
【法定労働時間の総枠の計算式】
清算期間の暦日数 ÷ 7日間 × 40時間
この計算式に基づき、清算期間(1ヶ月)の暦日数ごとの上限時間をまとめると以下のようになります。実務上は、この時間を基準に勤怠を管理します。
※特例措置対象事業場(週44時間適用)の場合は、上記「40時間」を「44時間」に置き換えて計算します。
清算期間が終了した時点で、従業員の実労働時間が「会社が定めた所定労働時間」を超えていた場合、その超過分は以下の2種類に分けて処理します。
原則として、フレックスタイム制では月内で残業代を清算する必要があり、残業時間を翌月に繰り越すことはできません。超過した時間分は、その月の給与として確実に支払う必要があります。
フレックスタイム制では、従業員の都合で早く帰宅したり、休みを多く取ったりすることで、清算期間の実労働時間が、会社と定めた総労働時間に届かないケースが発生します。この「不足時間」の処理には、大きく分けて2つの方法があります。
1つ目は、不足した時間分を「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、その月の給与から差し引く(控除する)方法です。
例えば、総労働時間が160時間の月に、実働が155時間だった場合、不足する5時間分の賃金をカットして支給します。これは通常の欠勤控除と同じ考え方であり、勤怠管理システム上でも比較的シンプルに処理できるため、多くの企業で採用されています。
この場合、不足時間はその月でリセットされるため、翌月以降の労働時間や給与計算に影響を及ぼすことはありません。
2つ目は、不足した時間を給与から引かず、翌月の総労働時間に上乗せして働いてもらうことで清算する方法です。
例えば、当月に5時間不足した場合、満額の給与を支払う代わりに、翌月の総労働時間に5時間をプラスします。従業員にとっては給与が減らないメリットがありますが、翌月の労働負荷が高くなる点に注意が必要です。
この運用を行う際の重要な注意点として、以下の2点があります。
フレックスタイム制は、単に「明日から自由に働いていいよ」と宣言するだけでは導入できません。法的な効力を持たせ、トラブルを防ぐために、就業規則の改定と労使協定の締結という2つの手続きが必須となります。
まず、就業規則に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」という旨を明記する必要があります。これがフレックスタイム制導入の絶対条件です。
次に、労使協定において以下の事項を定めます。清算期間が1ヶ月以内の場合は労働基準監督署への届出は不要ですが、1ヶ月を超える期間(最大3ヶ月)で設定する場合は届出が義務付けられています。
日によって労働時間が異なるフレックスタイム制では、「1日休んだら何時間働いたことになるのか」という基準が必要です。そのために定めるのが「標準となる1日の労働時間」です。
例えば、ここを「8時間」と設定しておけば、有給休暇を1日取得した際に「8時間労働した」ものとして実労働時間に加算します。この設定が曖昧だと、有給を取ったのに総労働時間が不足し、給与が控除されるといったトラブルになりかねないため、必ず協定で数値を明確にしておきましょう。
完全週休2日制(土日休みなど)の企業では、曜日配列によっては「所定労働日数 × 8時間」の合計が、法律上の「労働時間の総枠(週平均40時間)」を超えてしまう月が発生することがあります。
通常であれば違法となりますが、労使協定を結ぶことで、「所定労働日数 × 8時間」までは法定労働時間の総枠を超えても適法とする特例が認められています。
例えば、31日ある月(法定総枠177.1時間)に、土日が8回あり労働日が23日の場合、「23日×8時間=184時間」となります。本来は法定枠オーバーですが、この特例を適用することで、184時間までは残業代なしの所定労働時間として設定可能になります。カレンダー通りの勤務体系をとる企業では非常に重要な運用ルールです。
フレックスタイム制は従業員満足度が高い反面、管理者にとっては計算業務が煩雑になりがちです。法令遵守と効率化を両立させるために、運用面で押さえておくべきポイントを解説します。
「始業・終業を従業員に委ねる」といっても、企業が労働時間を把握しなくて良いわけではありません。労働安全衛生法により、企業は「客観的な方法による労働時間の把握」が義務付けられています。
自己申告制や手書きの出勤簿では、実際の労働時間と記録に乖離が生じやすく、後々の未払い残業代トラブルに発展するリスクがあります。フレックスタイム制であっても、ICカードやタイムレコーダーなどを用いて、いつ出社し、いつ退社したかを客観的なデータとして記録・保存する体制が不可欠です。
フレックスタイム制の管理をExcelなどの手作業で行うのは、計算ミスや確認漏れの温床となります。以下の理由から、専用の勤怠管理システムの導入が推奨されます。
システムを選ぶ際は、「コアタイム・フレキシブルタイムの設定柔軟性」や「不足時間の自動繰り越し機能」など、自社の規定に合った運用が可能かどうかを事前に確認しましょう。
本記事では、フレックスタイム制における勤怠管理の複雑なルールや、導入時の注意点について解説してきました。最後に、制度を成功させるための本質的なポイントをお伝えします。
管理担当者が目指すべきは、完璧な手計算を行うことではなく、「従業員が自分の持ち時間を把握し、コントロールできる環境」を整えることです。勤怠管理システムなどのツールを用いて計算業務を自動化することは、管理者の負担を減らすだけでなく、従業員自身が働き方を振り返るきっかけを作ることにも繋がります。
「時間は管理するもの」から「成果を出すための資源」へ。正確かつ効率的な勤怠管理の仕組みを構築し、形式上の制度導入ではなく、組織の文化としてフレックスタイム制を定着させていきましょう。
ここでは、勤怠管理システムの導入にあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれオススメのシステムを紹介します。
※引用元:キンタイミライ公式HP
(https://kintaimirai.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
「時間帯ごとの要員数」と「人件費予算」を同時に確認しながら、シフトの登録・調整を実施
1ヵ月60時間を超える時間外労働について、代替休暇を取得
指定した起算日に基づき、4週4休のチェックを実施し、必要に応じて休日出勤を割り当て
社会保険・36協定・長時間労働に関して、指定したルールに基づきアラート
振替出勤が発生してから指定期間が経過すると、休日出勤の割増賃金対象の時間数として自動精算
その企業固有の集計方法をきめ細かに設定し、集計を自動化
集計結果を含んだ出勤簿をPDF形式で出力
日々の勤務実績に基づく人件費を計算し、締め日を待たずして人件費を把握可能
従業員のマスタ情報を1ヶ月単位で管理できるほか、CSV形式で一括して取得/編集/登録も可能
社員やバイト、パートといった従業員の属性別にカレンダーを設定できるほか、まるめ・集計機能との連動も可能
登録されたシフトに基づいて、遅刻早退を自動で判定
売上や生産高、処理量などの成果を入力し、その成果と勤務実績を対比させて、折れ線グラフで表示
※引用元:ジョブカン勤怠管理 公式HP
(https://jobcan.ne.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
リアルタイムでスタッフの勤務状況の確認や拠点ごとの勤怠管理が可能
直感的な画面操作で簡単にシフトを申請・作成が可能
出勤管理機能やシフト管理機能と連動し、複雑な休暇管理を簡単に実施
スマホやタブレットでも、打刻・閲覧・各種申請などが可能
スタッフやタスクごとの工数集計やデータ出力・分析が可能
スタッフの勤務状況を自動集することが可能
時間外労働状を一覧で確認でき、36協定超過がある際は自動アラートでお知らせ
画面上の言語は、英語、韓国語、スペイン語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語への切り替えが可能
医療現場の勤務形態に合わせた運用が可能
※引用元:マネーフォワード クラウド勤怠 公式HP
(https://biz.moneyforward.com/attendance/)
タップすると各機能の説明が表示されます
日次勤怠、勤怠確認、分析レポート、拠点別打刻集計、カスタム自動集計(数値集計)
役職階層、ワークフロー経路、申請ワークフロー、代理申請ワークフロー、受信ワークフロー
異動予約(役職)一覧、異動予約(就業ルール)一覧
有給休暇の自動付与、有給休暇付与予定一覧、有給休暇管理簿
不正な打刻・打刻漏れ、許可されていない打刻、無効な勤務パターン
打刻ごとの丸め設定、出勤・退勤・休憩の丸め設定、勤怠項目ごとの丸め設定、日ごと・月ごとの丸め設定、未申請の丸め設定、シフト範囲外打刻の丸め設定
従業員データ、日次勤怠データ、有給休暇利用実績、休暇付与データなどのインポート
従業員データ、月別データ、出勤簿データ、出勤簿データ、1ヶ月のシフト表、時間帯別のシフト表などのエクスポート
シフト管理、操作権限設定、ワークフロー通知、マネーフォワード クラウド給与との連携
※選定基準:
・キンタイミライ:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、本番開発前のプロトタイプ開発および導入後の無料調整を唯一行っているシステムとして選出(2023年5月16日調査時点)。
・ジョブカン勤怠管理:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、必要な機能を選んで価格が決まる製品で、機能が200種類と最も多い (2023年5月16日調査時点)。
・マネーフォワード クラウド勤怠:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、一元管理できるバックオフィス業務のシステムが最も多い(2023年5月16日調査時点)。
ここでは、勤怠管理システムを乗り換えるにあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれどういう基準でシステムを選ぶべきかを解説いたします。
既存のシステムでは自社のルールに合った管理でができておらず、手作業が発生しているなど、今のシステムに課題を抱えている企業もたくさんいらっしゃることでしょう。ホテル、運輸・倉庫、小売り、飲食といった、一般的なオフィスワーカーとは異なる勤務体系の業種に多いようです。
また企業規模が大きくなればなるほど従業員の雇用形態や労働形態が複雑になる上、高いコンプライアンスを求められることから、大企業を中心に既存システムでは対応しきれなくなるケースも散見されます。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「高いカスタマイズ性」を持つ勤怠管理システム。既存システムの機能では解決できない以上、自社仕様に機能を開発/調整してもらうほかありません。
このようなシステムを導入するにあたっては、細かいヒアリングを行った後、エンジニアが機能を調整してくれるため、痒い所に手が届くシステムになるでしょう。その分、既存のシステムよりもコストがかかりますが、従業員規模1,000名~といった大企業であれば 費用感は合うはずです。
機能の充実した勤怠管理システムを入れてはみたものの、運用を始めてみるとあまり使っていない機能があることに気が付くケースです。複雑な機能を用いて厳密に管理を行うというよりかは、選び抜いた機能だけのシンプルで低コストなシステムに乗り換えたいとお考えの中小企業も多いでしょう。
従業員からも、管理者からも直感的に使えないとの声が上がったり、実際にエラーが頻出しているケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「機能を選んでコスパ良く使える」勤怠管理システム。「出勤管理機能」「休日申請機能」だけで良い企業もあれば、「シフト管理機能」も欲しい企業もあるでしょう。
企業の規模や労務管理の方法などによって、欲しい機能は異なるのが普通。機能を厳選することで、従業員にとってもシンプルで使いやすく、経営者にとってもコスパの良いシステムとなるのです。
事業の拡大に伴って従業員は増えるものの、労務管理を行う人数は増えていかず、管理する現場では負担が増える一方。既存のシステムでは勤怠とその他バックオフィスシステムを別々に導入しているため、うまく連携できていないという課題を持つ企業もいらっしゃることでしょう。
ベンチャー企業などにおいては、上場を視野に入れてバックオフィス業務を一気に統制していきたいというケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「バックオフィス業務を一元管理できる」勤怠管理システム。「勤怠管理」だけでなく「給与」「会計」「経費」「人事管理」など、複数のバックオフィスシステムを展開しているシステムから、自社が必要なシステムを組み合わせて乗り換えると良いでしょう。
当然連携することを前提に開発されている為「リアルタイムでの数値同期」などで税理士との連携を行いながら、より効率的にバックオフィス業務を遂行することが可能です。