2019年4月に施行された働き方改革関連法により、労働安全衛生法が改正され、すべての企業で従業員の労働時間を客観的な方法で把握することが法律上の義務となりました。これは企業の規模や業種に関わらず、従業員を一人でも雇用している場合に適用されます。この法改正の背景には、長時間労働による健康被害や、サービス残業といった社会問題がありました。
本章では、労働時間管理がなぜ重要なのか、その目的や対象者、そして管理を怠った場合のリスクについて詳しく解説します。
労働時間管理の最も重要な目的は、第一に「従業員の健康確保」です。長時間労働は、心身に大きな負担をかけ、過労死やメンタルヘルスの不調を引き起こす原因となり得ます。企業は従業員の労働時間を正確に把握することで、過重労働を未然に防ぎ、必要な休息を確保させる安全配慮義務を果たさなければなりません。
第二の目的は「コンプライアンスの遵守」です。労働基準法や労働安全衛生法などの法律を遵守することは、企業が社会的な責任を果たす上で不可欠です。法定労働時間や時間外労働の上限規制を守り、働いた時間に応じて正確な賃金を支払うことは、法律で定められた企業の義務であり、未払い残業などの労務トラブルを防止する基盤となります。
労働時間の把握義務そのものに直接的な罰則は設けられていませんが、管理を怠った結果として他の法律に違反した場合には罰則が科せられます。例えば、時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間が原則)を超過すると、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。また、賃金台帳への虚偽記載なども罰金の対象です。
さらに、違法な長時間労働が常態化しているなど悪質なケースでは、厚生労働省による企業名の公表措置が取られることもあります。これにより企業の社会的信用は大きく損なわれ、採用活動の難航や取引先からの信頼低下など、事業運営に深刻な打撃を与える可能性があります。法的な罰則以上に、企業の評判を落とすリスクは計り知れないのです。
企業が適正な労働時間管理を行うにあたり、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定めています。本章では、ガイドラインが企業に求めている4つの具体的な措置について、一つずつ詳しく解説していきます。自社の現状と照らし合わせ、適切に対応できているかを確認しましょう。
ガイドラインが最も重視しているのが、労働時間の「客観性」です。そのため、使用者は労働日ごとに従業員の始業時刻と終業時刻を確認し、客観的な方法で記録しなければなりません。単に「1日8時間勤務」といった総時間での管理ではなく、「何時から何時まで働いたか」を正確に記録することが求められます。これにより、時間外労働や休日労働、深夜労働の時間を正しく把握し、適切な割増賃金の支払いが可能になります。
客観的な記録方法として、ガイドラインは「使用者が自ら現認し記録すること」または「タイムカード、ICカード、PCの使用時間の記録等を基礎とすること」を原則として挙げています。これらの記録は、万が一の労務トラブルの際に企業を守る証拠ともなり得ます。
従業員が手書きの出勤簿などに労働時間を記入する「自己申告制」は、客観性に乏しく、労働時間が過少申告される温床になりやすいとの理由から、ガイドラインでは原則として認められていません。ただし、テレワークや直行直帰など、事業場の外で勤務するため客観的な記録が難しい場合に限り、やむを得ない措置として自己申告制の導入が許容されています。
その場合でも、企業は「従業員や管理者に対し、労働時間の実態を正しく記録・申告することについて十分な説明を行う」「自己申告された時間と、PCログや入退室記録など実態との間に乖離がないか定期的に調査し、必要に応じて補正する」「時間外労働の上限を設定するなど、適正な申告を阻害する措置を講じない」といった厳しい条件を満たす必要があります。
労働基準法により、企業は各事業場ごとに賃金台帳を作成し、従業員一人ひとりの賃金支払い状況を記録することが義務付けられています。この賃金台帳には、単に給与の総額を記載するだけでは不十分です。ガイドラインでは、労働時間の記録と連携し、給与計算の根拠となる情報を正確に記入することを求めています。
具体的には、「労働日数」や「総労働時間数」はもちろんのこと、「時間外労働時間数」「休日労働時間数」「深夜労働時間数」といった、割増賃金の算定基礎となる労働時間を項目別に分けて明記しなければなりません。これらの事項を記載していなかったり、故意に事実と異なる時間数を記入したりした場合は、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
労働時間に関する記録は、作成するだけでなく、法律で定められた期間、適切に保存する義務があります。労働基準法第109条に基づき、労働関係の重要書類の保存期間は原則「5年間」と定められました。ただし、法改正の経過措置として、当面の間は「3年間」の保存が適用されます。この保存義務の対象となるのは、タイムカードや出勤簿、賃金台帳だけではありません。残業を命じた際の「時間外労働・休日労働に関する命令書・報告書」や、従業員からの「残業申請書」など、労働時間の記録に関するあらゆる書類が含まれます。
書類によって保存期間の起算日(いつから数え始めるか)が異なる場合があるため、一括で廃棄するといった運用は避け、書類ごとに管理を徹底することが重要です。
厚生労働省のガイドラインに沿って管理の仕組みを整えるだけでなく、それを日々の業務の中で確実に実践していくことが重要です。形だけのルールにならないよう、企業はいくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。本章では、適正な労働時間管理を全社に浸透させ、実効性のあるものにするための具体的な4つのポイントについて解説します。
労働時間に対する賃金は、1分単位で計算し支払うのが大原則です。これは労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に基づいています。慣習的に行われがちな「15分未満の切り捨て」や「タイムカードを定時で打刻させた後のサービス残業」は、たとえ数分であっても労働した実態があれば違法となり、賃金未払いと判断される可能性があります。
ただし、事務処理を簡素化するための例外として、1ヶ月の時間外労働、休日労働、深夜労働の合計時間数に1時間未満の端数が生じた場合に限り、「30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる」処理が認められています。この例外を日々の勤怠記録に適用することはできないため、あくまで1分単位での正確な記録と管理を徹底しましょう。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員に時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合、事前に労働者の過半数代表者との間で「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。そして、36協定を締結すれば無制限に残業させられるわけではなく、法律で厳格な上限時間が定められています。時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」です。
臨時的な特別な事情がある場合に適用される特別条項付き36協定を結んだとしても、「年720時間以内」「複数月平均80時間以内」「月100時間未満」といった上限は絶対に超えることができません。これらの上限を超過すると罰則の対象となるため、勤怠管理システムなどを活用して従業員ごとの残業時間をリアルタイムで把握し、上限を超えないよう管理することが不可欠です。
長時間労働の是正は、従業員個人の意識や努力だけに頼るのではなく、会社全体として長時間労働が発生しにくい組織体制を構築することが根本的な解決策となります。まずは、特定の部署や従業員に業務負荷が偏っていないか実態を把握し、必要であれば人員配置の見直しや部署間での協力体制を整えるなどの対策を検討しましょう。
また、不要な会議の削減、業務プロセスの見直し、ITツール導入による自動化など、業務全体の生産性を向上させる取り組みも有効です。これらの施策は、人事部門だけで進めるのは困難なため、経営層が主導し、各現場の管理職と密に連携しながら、全社的なプロジェクトとして推進していくことが成功の鍵となります。
適正な労働時間管理を企業文化として定着させるためには、経営層から一般従業員まで、すべての関係者がその重要性を正しく理解し、当事者意識を持つことが不可欠です。まず経営層には、労働時間管理が法令遵守という守りの側面だけでなく、従業員の生産性向上や離職率低下、ひいては企業価値の向上につながる重要な経営課題であると認識してもらう必要があります。
そして従業員に対しても、なぜ正確な労働時間の記録が必要なのか、会社のルールや法律の定めについて研修などの機会を設けて丁寧に説明しましょう。全社で目的意識を共有することで、日々の打刻の徹底や時間管理への協力が得られやすくなり、実効性のある労務管理が実現します。
本記事で解説してきたように、労働時間管理は2019年の法改正により、企業の規模や業種を問わず、すべての事業者に課せられた法律上の義務です。その根底にあるのは、従業員の心身の健康を守り、過重労働を防ぐという目的、そして法律を遵守し、健全な企業経営を行うというコンプライアンスの観点です。
これを機に、自社の労働時間管理体制が法的に適切であるか、今一度見直してみてはいかがでしょうか。もし、タイムカードの集計やExcelへの手入力といったアナログな管理に限界を感じているのであれば、勤怠管理システムの導入も有効な選択肢です。客観的な記録に基づいた正しい労働時間管理を徹底することは、従業員との信頼関係を深め、企業の成長を支える基盤となるでしょう。
ここでは、勤怠管理システムの導入にあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれオススメのシステムを紹介します。
※引用元:キンタイミライ公式HP
(https://kintaimirai.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
「時間帯ごとの要員数」と「人件費予算」を同時に確認しながら、シフトの登録・調整を実施
1ヵ月60時間を超える時間外労働について、代替休暇を取得
指定した起算日に基づき、4週4休のチェックを実施し、必要に応じて休日出勤を割り当て
社会保険・36協定・長時間労働に関して、指定したルールに基づきアラート
振替出勤が発生してから指定期間が経過すると、休日出勤の割増賃金対象の時間数として自動精算
その企業固有の集計方法をきめ細かに設定し、集計を自動化
集計結果を含んだ出勤簿をPDF形式で出力
日々の勤務実績に基づく人件費を計算し、締め日を待たずして人件費を把握可能
従業員のマスタ情報を1ヶ月単位で管理できるほか、CSV形式で一括して取得/編集/登録も可能
社員やバイト、パートといった従業員の属性別にカレンダーを設定できるほか、まるめ・集計機能との連動も可能
登録されたシフトに基づいて、遅刻早退を自動で判定
売上や生産高、処理量などの成果を入力し、その成果と勤務実績を対比させて、折れ線グラフで表示
※引用元:ジョブカン勤怠管理 公式HP
(https://jobcan.ne.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
リアルタイムでスタッフの勤務状況の確認や拠点ごとの勤怠管理が可能
直感的な画面操作で簡単にシフトを申請・作成が可能
出勤管理機能やシフト管理機能と連動し、複雑な休暇管理を簡単に実施
スマホやタブレットでも、打刻・閲覧・各種申請などが可能
スタッフやタスクごとの工数集計やデータ出力・分析が可能
スタッフの勤務状況を自動集することが可能
時間外労働状を一覧で確認でき、36協定超過がある際は自動アラートでお知らせ
画面上の言語は、英語、韓国語、スペイン語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語への切り替えが可能
医療現場の勤務形態に合わせた運用が可能
※引用元:マネーフォワード クラウド勤怠 公式HP
(https://biz.moneyforward.com/attendance/)
タップすると各機能の説明が表示されます
日次勤怠、勤怠確認、分析レポート、拠点別打刻集計、カスタム自動集計(数値集計)
役職階層、ワークフロー経路、申請ワークフロー、代理申請ワークフロー、受信ワークフロー
異動予約(役職)一覧、異動予約(就業ルール)一覧
有給休暇の自動付与、有給休暇付与予定一覧、有給休暇管理簿
不正な打刻・打刻漏れ、許可されていない打刻、無効な勤務パターン
打刻ごとの丸め設定、出勤・退勤・休憩の丸め設定、勤怠項目ごとの丸め設定、日ごと・月ごとの丸め設定、未申請の丸め設定、シフト範囲外打刻の丸め設定
従業員データ、日次勤怠データ、有給休暇利用実績、休暇付与データなどのインポート
従業員データ、月別データ、出勤簿データ、出勤簿データ、1ヶ月のシフト表、時間帯別のシフト表などのエクスポート
シフト管理、操作権限設定、ワークフロー通知、マネーフォワード クラウド給与との連携
※選定基準:
・キンタイミライ:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、本番開発前のプロトタイプ開発および導入後の無料調整を唯一行っているシステムとして選出(2023年5月16日調査時点)。
・ジョブカン勤怠管理:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、必要な機能を選んで価格が決まる製品で、機能が200種類と最も多い (2023年5月16日調査時点)。
・マネーフォワード クラウド勤怠:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、一元管理できるバックオフィス業務のシステムが最も多い(2023年5月16日調査時点)。
ここでは、勤怠管理システムを乗り換えるにあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれどういう基準でシステムを選ぶべきかを解説いたします。
既存のシステムでは自社のルールに合った管理でができておらず、手作業が発生しているなど、今のシステムに課題を抱えている企業もたくさんいらっしゃることでしょう。ホテル、運輸・倉庫、小売り、飲食といった、一般的なオフィスワーカーとは異なる勤務体系の業種に多いようです。
また企業規模が大きくなればなるほど従業員の雇用形態や労働形態が複雑になる上、高いコンプライアンスを求められることから、大企業を中心に既存システムでは対応しきれなくなるケースも散見されます。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「高いカスタマイズ性」を持つ勤怠管理システム。既存システムの機能では解決できない以上、自社仕様に機能を開発/調整してもらうほかありません。
このようなシステムを導入するにあたっては、細かいヒアリングを行った後、エンジニアが機能を調整してくれるため、痒い所に手が届くシステムになるでしょう。その分、既存のシステムよりもコストがかかりますが、従業員規模1,000名~といった大企業であれば 費用感は合うはずです。
機能の充実した勤怠管理システムを入れてはみたものの、運用を始めてみるとあまり使っていない機能があることに気が付くケースです。複雑な機能を用いて厳密に管理を行うというよりかは、選び抜いた機能だけのシンプルで低コストなシステムに乗り換えたいとお考えの中小企業も多いでしょう。
従業員からも、管理者からも直感的に使えないとの声が上がったり、実際にエラーが頻出しているケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「機能を選んでコスパ良く使える」勤怠管理システム。「出勤管理機能」「休日申請機能」だけで良い企業もあれば、「シフト管理機能」も欲しい企業もあるでしょう。
企業の規模や労務管理の方法などによって、欲しい機能は異なるのが普通。機能を厳選することで、従業員にとってもシンプルで使いやすく、経営者にとってもコスパの良いシステムとなるのです。
事業の拡大に伴って従業員は増えるものの、労務管理を行う人数は増えていかず、管理する現場では負担が増える一方。既存のシステムでは勤怠とその他バックオフィスシステムを別々に導入しているため、うまく連携できていないという課題を持つ企業もいらっしゃることでしょう。
ベンチャー企業などにおいては、上場を視野に入れてバックオフィス業務を一気に統制していきたいというケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「バックオフィス業務を一元管理できる」勤怠管理システム。「勤怠管理」だけでなく「給与」「会計」「経費」「人事管理」など、複数のバックオフィスシステムを展開しているシステムから、自社が必要なシステムを組み合わせて乗り換えると良いでしょう。
当然連携することを前提に開発されている為「リアルタイムでの数値同期」などで税理士との連携を行いながら、より効率的にバックオフィス業務を遂行することが可能です。