勤怠管理システムは、社員の出退勤や労働時間を正確に記録し、給与計算や労務管理を支える基幹ツールです。しかしその裏側では、提供元ベンダーのサポート期限や法改正への対応、インフラのライフサイクルなど複数の要素が絡み合い、ある日突然「保守切れ」に陥るリスクがあります。保守切れを放置すると、法令違反やセキュリティ事故、業務停止といった深刻なトラブルを招きかねません。
本記事では、まず保守切れが生じる背景を整理し、次に切れた際に直面する問題点を紐解き、最後に具体的な回避策・解決方法をわかりやすく解説します。初心者にもイメージしやすいよう、専門用語は極力かみくだきつつ、実務目線のポイントを押さえて進めていきましょう。
勤怠管理システムは一度導入すれば何年も使い続けるケースが多いため、背後で動く技術や制度が変化するとサポート期限が迫ります。
多くのオンプレミス型パッケージは、販売終了(EoL)後5~7年を目安にサポート(EoS)が打ち切られます。たとえばある大手勤怠パッケージでは、2022年にメンテナンスが終了し、2025年には電話サポートも停止すると発表されました。こうした計画的な終息ポリシーは、クラウド版や後継製品への移行を促す直接的な契機になります。
働き方改革関連法の施行以降、有給休暇の強制付与や残業時間上限規制など、毎年のように労働基準法が改正されています。旧バージョンのシステムではこれらの新要件に対応できず、結果的に「法令対応は現行製品のみ」というベンダー方針に従い、旧版は事実上サポート切れとなるケースが増えています。
多くのオンプレ型システムはWindows Serverや古いLinuxディストリビューション上で稼働しており、基盤OSの延長サポート終了がアプリ保守にも影響します。OSパッチが打たれなくなると脆弱性が修正されず、情報漏えいや業務停止リスクが高まるため、基盤サポート切れはアプリ保守切れを誘発する仕組みです。
長年稼働したシステムは、専任エンジニアの退職や改修ドキュメントの不備、古い開発言語の採用といったレガシー要素を抱えます。部品供給が途絶えたタイムレコーダーの修理不可機種が増加する一方で、対応可能な技術者も不足し、保守継続コストが膨らむため、ベンダーは旧版サポートを早期に終了せざるを得ません。
オンプレミス環境を延命するには独自改修やハード更新、セキュリティ対策といった投資がかさみます。その総額がクラウド移行費用を上回るケースが増え、クラウドベンダーは「自動アップデートで法改正対応無料」といったメリットを訴求し、TCO(総保有コスト)比較でクラウド有利の構図が定着しています。
保守切れの状態を放置すると、企業が同時多発的に直面するリスクが五重奏のように重なります。
有給休暇の自動集計や残業上限アラートといった法改正対応ロジックが利用できず、適切な勤怠管理ができないまま運用すると、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、罰金を科されたりする可能性があります。特に従業員数が多い企業ほど罰則額が膨らみ、社名公表のリスクも高まります。
基盤OSのパッチが停止した環境は、新たな脆弱性に対して無防備な状態を意味します。攻撃者に狙われやすく、個人情報の塊である勤怠データの漏えい事故は損害賠償や社会的信用失墜を招き、数億円規模の損失に発展し得る深刻な問題です。
システムダウンが起こると給与計算や人員配置の確認が止まり、全社的な業務に混乱が起きます。BCP(事業継続計画)上も致命的で、ダウンタイム1時間あたり数千万円の損失として試算されることも珍しくありません。
旧版では法改正ロジックを持たないため、現場がExcelで手入力や二重転記を余儀なくされ、人件費やミス修正コストが急増します。締め日遅延や誤支給のリスクも高まり、労務担当者の負担が大幅に増大します。
旧DB形式が変換ツールに対応せず、CSVエクスポートも仕様外という事例が報告されています。データ移行に別途高額な費用が発生し、さらに周辺機器の刷新が必要になると、初期投資は保守継続より格段に高くつき、「2025年の崖」と呼ばれる技術者不足も重なって、移行計画そのものが頓挫する恐れがあります。
まずはベンダーが公表するサポート終了カレンダーを全社で共有し、EoS3年前には移行予算を確保します。検証環境で法改正シナリオをテストし、現行版との差分を明確化したうえで、本番環境への切り替えを段階的に進めるのが効果的です。
主要なクラウド勤怠サービスは法改正やセキュリティパッチを自動適用する仕組みを備えており、保守切れリスクを根本から排除します。導入コストが抑えられるIT導入補助金や働き方改革推進助成金を活用すれば、初期投資を大幅に軽減できます。
オンプレミス環境を維持する場合でも、Windows Serverの延長サポートを受けるためにAzureへのリフト&シフトを検討しましょう。IaaSを経由して後継クラウド勤怠へ移行する「二段階移行」は、中期的な予算配分と人的リソースの分散を可能にします。
構成管理データベース(CMDB)でアプリ、OS、ハードを階層的に管理し、サポート終了日が近づくと自動通知する運用を組み込みます。年1回の脆弱性診断やBCP訓練に勤怠シナリオを組み込むことで、万が一の障害にも素早く対応できる体制を構築できます。
タイムレコーダーなどの部品供給終了機種は早めに生体認証型やICカード型へ切り替えましょう。また、法改正チェックや運用監視はMSP(Managed Service Provider)に委託し、自社リソースはコア業務に集中させると効率的です。
移行フェーズでは単体・結合・総合テストのすべてで、法改正や残業上限アラートのシナリオを自動化テストケースに入れ、データのズレがないことを確認します。これにより、切り替え後のトラブルを最小限に抑えられます。
勤怠管理システムの保守切れは、ベンダーの製品ライフサイクルや法改正対応、基盤OSのサポート終了、レガシー要素による人材・部品不足、そしてクラウド移行の経済合理性といった複数の要因が重なり合って起こります。保守切れを放置すると、法令違反やセキュリティ事故、業務停止による巨額損失、手作業への逆戻りによる生産性低下、移行・再構築費用の急増など、企業にとって致命的なリスクが一気に顕在化します。
これらを未然に防ぐには、まずサポート終了カレンダーを社内で共有して計画的なバージョンアップ予算を確保し、検証環境でのシナリオテストを通じて切り替え手順を練ることが肝心です。主要クラウド/SaaS型サービスの導入や、OS・インフラのモダナイゼーション、CMDBを活用した資産管理プロセスの整備によって、自動的なアップデートやアラート通知を実現できます。さらに、周辺機器の先行更新とMSPへの運用委託、移行フェーズでの徹底した受入テストを組み合わせることで、トラブルの発生を最小限に抑えられます。
これらの対策を一つひとつ着実に実行に移すことで、法令遵守やセキュリティ強化、コスト最適化を同時に達成し、安全かつ安定的な勤怠管理環境を長期的に維持できるでしょう。
勤怠管理システムを導入する・乗り換えを行う場合には、自社にとって使いやすいシステムかどうかを十分に確認するといった点が非常に重要になってきます。そのためにも、トライアルの活用がおすすめです。実際にシステムを操作してみることで、自社に合ったシステムかどうかを確認できます。
本メディアでは、50以上の勤怠管理システムを調査。勤怠管理システム導入後のよくある課題から逆算し、その課題ごとにおすすめのシステムをご紹介しています。
ここでは、勤怠管理システムの導入にあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれオススメのシステムを紹介します。
※引用元:キンタイミライ公式HP
(https://kintaimirai.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
「時間帯ごとの要員数」と「人件費予算」を同時に確認しながら、シフトの登録・調整を実施
1ヵ月60時間を超える時間外労働について、代替休暇を取得
指定した起算日に基づき、4週4休のチェックを実施し、必要に応じて休日出勤を割り当て
社会保険・36協定・長時間労働に関して、指定したルールに基づきアラート
振替出勤が発生してから指定期間が経過すると、休日出勤の割増賃金対象の時間数として自動精算
その企業固有の集計方法をきめ細かに設定し、集計を自動化
集計結果を含んだ出勤簿をPDF形式で出力
日々の勤務実績に基づく人件費を計算し、締め日を待たずして人件費を把握可能
従業員のマスタ情報を1ヶ月単位で管理できるほか、CSV形式で一括して取得/編集/登録も可能
社員やバイト、パートといった従業員の属性別にカレンダーを設定できるほか、まるめ・集計機能との連動も可能
登録されたシフトに基づいて、遅刻早退を自動で判定
売上や生産高、処理量などの成果を入力し、その成果と勤務実績を対比させて、折れ線グラフで表示
※引用元:ジョブカン勤怠管理 公式HP
(https://jobcan.ne.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
リアルタイムでスタッフの勤務状況の確認や拠点ごとの勤怠管理が可能
直感的な画面操作で簡単にシフトを申請・作成が可能
出勤管理機能やシフト管理機能と連動し、複雑な休暇管理を簡単に実施
スマホやタブレットでも、打刻・閲覧・各種申請などが可能
スタッフやタスクごとの工数集計やデータ出力・分析が可能
スタッフの勤務状況を自動集することが可能
時間外労働状を一覧で確認でき、36協定超過がある際は自動アラートでお知らせ
画面上の言語は、英語、韓国語、スペイン語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語への切り替えが可能
医療現場の勤務形態に合わせた運用が可能
※引用元:マネーフォワード クラウド勤怠 公式HP
(https://biz.moneyforward.com/attendance/)
タップすると各機能の説明が表示されます
日次勤怠、勤怠確認、分析レポート、拠点別打刻集計、カスタム自動集計(数値集計)
役職階層、ワークフロー経路、申請ワークフロー、代理申請ワークフロー、受信ワークフロー
異動予約(役職)一覧、異動予約(就業ルール)一覧
有給休暇の自動付与、有給休暇付与予定一覧、有給休暇管理簿
不正な打刻・打刻漏れ、許可されていない打刻、無効な勤務パターン
打刻ごとの丸め設定、出勤・退勤・休憩の丸め設定、勤怠項目ごとの丸め設定、日ごと・月ごとの丸め設定、未申請の丸め設定、シフト範囲外打刻の丸め設定
従業員データ、日次勤怠データ、有給休暇利用実績、休暇付与データなどのインポート
従業員データ、月別データ、出勤簿データ、出勤簿データ、1ヶ月のシフト表、時間帯別のシフト表などのエクスポート
シフト管理、操作権限設定、ワークフロー通知、マネーフォワード クラウド給与との連携
※選定基準:
・キンタイミライ:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、本番開発前のプロトタイプ開発および導入後の無料調整を唯一行っているシステムとして選出(2023年5月16日調査時点)。
・ジョブカン勤怠管理:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、必要な機能を選んで価格が決まる製品で、機能が200種類と最も多い (2023年5月16日調査時点)。
・マネーフォワード クラウド勤怠:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、一元管理できるバックオフィス業務のシステムが最も多い(2023年5月16日調査時点)。
ここでは、勤怠管理システムを乗り換えるにあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれどういう基準でシステムを選ぶべきかを解説いたします。
既存のシステムでは自社のルールに合った管理でができておらず、手作業が発生しているなど、今のシステムに課題を抱えている企業もたくさんいらっしゃることでしょう。ホテル、運輸・倉庫、小売り、飲食といった、一般的なオフィスワーカーとは異なる勤務体系の業種に多いようです。
また企業規模が大きくなればなるほど従業員の雇用形態や労働形態が複雑になる上、高いコンプライアンスを求められることから、大企業を中心に既存システムでは対応しきれなくなるケースも散見されます。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「高いカスタマイズ性」を持つ勤怠管理システム。既存システムの機能では解決できない以上、自社仕様に機能を開発/調整してもらうほかありません。
このようなシステムを導入するにあたっては、細かいヒアリングを行った後、エンジニアが機能を調整してくれるため、痒い所に手が届くシステムになるでしょう。その分、既存のシステムよりもコストがかかりますが、従業員規模1,000名~といった大企業であれば 費用感は合うはずです。
機能の充実した勤怠管理システムを入れてはみたものの、運用を始めてみるとあまり使っていない機能があることに気が付くケースです。複雑な機能を用いて厳密に管理を行うというよりかは、選び抜いた機能だけのシンプルで低コストなシステムに乗り換えたいとお考えの中小企業も多いでしょう。
従業員からも、管理者からも直感的に使えないとの声が上がったり、実際にエラーが頻出しているケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「機能を選んでコスパ良く使える」勤怠管理システム。「出勤管理機能」「休日申請機能」だけで良い企業もあれば、「シフト管理機能」も欲しい企業もあるでしょう。
企業の規模や労務管理の方法などによって、欲しい機能は異なるのが普通。機能を厳選することで、従業員にとってもシンプルで使いやすく、経営者にとってもコスパの良いシステムとなるのです。
事業の拡大に伴って従業員は増えるものの、労務管理を行う人数は増えていかず、管理する現場では負担が増える一方。既存のシステムでは勤怠とその他バックオフィスシステムを別々に導入しているため、うまく連携できていないという課題を持つ企業もいらっしゃることでしょう。
ベンチャー企業などにおいては、上場を視野に入れてバックオフィス業務を一気に統制していきたいというケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「バックオフィス業務を一元管理できる」勤怠管理システム。「勤怠管理」だけでなく「給与」「会計」「経費」「人事管理」など、複数のバックオフィスシステムを展開しているシステムから、自社が必要なシステムを組み合わせて乗り換えると良いでしょう。
当然連携することを前提に開発されている為「リアルタイムでの数値同期」などで税理士との連携を行いながら、より効率的にバックオフィス業務を遂行することが可能です。