企業の健全な運営に欠かせない「労務管理」と「勤怠管理」。一見似た言葉ですが、その範囲や役割には明確な違いがあります。労務管理は広範な人事関連業務を含み、勤怠管理は日々の労働時間を正確に記録する重要な土台です。本記事では、この2つの関係性と勤怠管理が企業経営に与える影響をわかりやすく解説します。
「労務管理」と「勤怠管理」は、企業のバックオフィス業務において頻繁に使われる言葉ですが、その意味や範囲を混同している方も少なくありません。この二つの違いは、管理する業務範囲の広さにあります。結論から言うと、「勤怠管理」は「労務管理」という大きな枠組みに含まれる業務の一つです。
企業における従業員の管理業務は、採用や育成、評価などを含む最も広義な「人事管理」があり、その中に福利厚生や安全衛生管理などを含む「労務管理」が存在します。そして、労務管理の中でも、日々の労働時間の記録に特化した業務が「勤怠管理」という位置づけになります。このように階層で捉えることで、それぞれの関係性が明確になります。適切な労務管理を行うためには、その土台となる勤怠管理を正確に行うことが不可欠です。
労務管理や勤怠管理としばしば混同される言葉に「人事管理」と「就業管理」があります。これらの違いを理解することで、業務の全体像をより正確に捉えることができます。
「人事管理」は、従業員の採用、教育・研修、人事評価、人材配置、異動など、企業の経営資源である「ヒト」を最大限に活用するための、より広範なマネジメント活動全般を指します。労務管理も、この人事管理という大きな枠組みの一部に含まれます。
一方、「就業管理」は、労務管理と目的が似ていますが、より「日々の働き方そのもの」に焦点を当てた管理を意味します。従業員の労働時間が法令や就業規則の範囲内で適切に運用されているかを確認し、管理する業務です。労務管理が雇用契約や社会保険手続きまで含むのに対し、就業管理は実際の労働実態の管理という、やや狭い範囲を指す言葉として使われます。
勤怠管理は、単なるタイムカードの記録や出勤簿のチェックといった単純作業ではありません。企業の根幹を支える労務管理において、極めて重要な役割を担っています。その理由は大きく分けて「給与計算」「コンプライアンス」「従業員の健康管理」の3つの側面にあります。ここでは、勤怠管理がなぜそれほど重要なのかを具体的に解説します。
従業員に支払われる給与は、基本給のほかに、時間外労働手当(残業代)、深夜労働手当、休日出勤手当など、実際の労働時間に基づいて計算される項目が多く含まれます。これらの手当を正しく算出するためには、日々の始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働時間などを1分単位で正確に記録した勤怠データが不可欠です。
もし勤怠管理が曖昧であれば、残業代の未払いや計算間違いが発生し、従業員との信頼関係を大きく損なう原因となります。これは従業員のモチベーション低下を招くだけでなく、労働基準法で定められた「賃金全額払いの原則」に違反する可能性もあります。従業員の生活を支える給与を正確に支払うという企業の基本的な責務を果たす上で、勤怠管理はすべての土台となるのです。
企業は、労働基準法をはじめとする様々な労働関連法規を遵守する義務があります。特に近年は「働き方改革」の推進により、時間外労働の上限規制(36協定)などが厳格化されており、企業の労働時間管理に対する社会的な目も厳しくなっています。
正確な勤怠管理を行うことで、従業員一人ひとりの労働時間が法律の定める上限を超えていないか、法定の休憩時間がきちんと付与されているかといった状況を客観的なデータで把握できます。これにより、意図せず法律に違反してしまうリスクを未然に防ぐことが可能です。万が一、勤怠管理を怠り法令違反が発覚した場合、労働基準監督署からの是正勧告や罰則の対象となり、企業の社会的信用を大きく損なう事態にもなりかねません。
適切な勤怠管理は、従業員の健康を守るという重要な役割も担っています。日々の労働時間を正確に把握・可視化することで、特定の従業員に過度な業務負担がかかっていないか、長時間労働が常態化していないかを早期に発見することができます。
長時間労働は、従業員の心身に大きな負担をかけ、過労死やメンタルヘルスの不調といった深刻な健康問題を引き起こす大きな原因となります。こうした状況を放置すれば、従業員の離職につながるだけでなく、企業が安全配慮義務違反を問われ、訴訟などの重大な労務トラブルに発展するリスクも高まります。勤怠管理を通じて労働環境を常にモニタリングし、改善していくことは、従業員が健康で長く働き続けられる職場を実現し、企業の持続的な成長を支えるための不可欠な取り組みなのです。
労務管理と勤怠管理の関係性を理解したところで、それぞれの具体的な業務内容を見ていきましょう。担当する業務範囲がどのように違うのかを把握することで、両者の役割がより明確になります。
労務管理の業務は、従業員の入社から退職までのライフサイクル全般に関わる、非常に広範な手続きや管理業務を含みます。これらは従業員が安心して働ける環境を法的な側面から支えるものです。
勤怠管理は、労務管理の一部でありながら、従業員の日々の労働実態を正確に把握することに特化した業務です。これらの業務は、給与計算や法令遵守の基礎となる客観的なデータを収集・管理する役割を担います。
勤怠管理や労務管理は、企業の成長に欠かせない重要な業務ですが、その内容は複雑で多岐にわたります。特に紙のタイムカードやExcelを使った手作業での管理は、担当者に大きな負担をかけ、ミスや漏れの原因にもなりがちです。こうした課題を解決する有効な手段が、勤怠管理システムの導入です。ここでは、システム化がもたらす具体的なメリットを4つの観点から解説します。
従来のタイムカード運用では、月末になると各拠点からタイムカードを回収し、打刻漏れや間違いを目で確認しながらExcelに手入力し、残業時間などを手計算するといった膨大な作業が発生していました。勤怠管理システムを導入すれば、これらの手作業の多くを自動化できます。
従業員がPCやスマートフォン、ICカードなどで打刻したデータは、即座にシステムに記録され、労働時間や残業時間も自動で集計されます。これにより、面倒な転記作業や計算業務が一切不要となり、ヒューマンエラーのリスクを大幅に削減できます。担当者は月末の煩雑な作業から解放され、就業規則の改定や職場環境の改善といった、より創造的で重要な業務に時間を使うことができるようになります。
労働基準法や育児・介護休業法といった労働関連法規は、社会情勢の変化に合わせて頻繁に改正されます。例えば、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化など、企業が対応すべきルールは年々複雑になっています。担当者がこれらの法改正の情報を常に追いかけ、手作業で給与計算のロジックや管理方法を変更するのは非常に困難であり、対応漏れのリスクも伴います。
多くのクラウド型勤怠管理システムは、法改正が行われると自動でシステムがアップデートされるため、企業側は特別な対応をすることなく、常に最新の法令に準拠した勤怠管理を維持できます。これにより、意図しない法令違反を未然に防ぎ、企業のコンプライアンス体制を強化することができます。
近年、テレワークやフレックスタイム制、現場への直行直帰など、従業員の働き方は多様化しています。しかし、オフィスに設置されたタイムレコーダーでの打刻では、こうした柔軟な働き方に対応することが困難です。自己申告制に頼ると、労働時間の実態を客観的に把握しにくいという課題も生じます。
勤怠管理システムを導入すれば、スマートフォンやPCを利用したWeb打刻やGPS機能と連携した打刻など、場所を選ばずに勤怠を記録できます。これにより、オフィス外で働く従業員の労働時間も正確に管理することが可能になります。企業は多様なワークスタイルを安心して導入でき、従業員はより柔軟な働き方を選択できるようになるため、従業員満足度の向上にもつながります。
紙やExcelでの管理では、月締めで集計してみないと各従業員の正確な残業時間がわからないというケースが多くありました。それでは、月の途中で長時間労働の兆候があっても気づくのが遅れてしまいます。
勤怠管理システムを利用すると、従業員の労働時間がリアルタイムでデータに反映され、ダッシュボードなどでいつでも可視化できます。管理者は、残業時間が上限に近づいている従業員を早期に発見し、業務量の調整や声かけといった対策を講じることが可能です。多くのシステムには、設定した時間を超えると本人や上長にアラートを通知する機能も備わっています。このような仕組みを活用することで、長時間労働を未然に防ぎ、従業員の健康を守ると同時に、労務リスクを効果的に低減できます。
本記事では、労務管理と勤怠管理の違いから、それぞれの具体的な業務内容、そして勤怠管理の重要性について解説しました。
労務管理は、従業員が安心して働ける環境を整えるための幅広い業務全般を指し、勤怠管理はその中でも日々の労働時間を正確に記録・管理するという、労務管理の土台を支える重要な業務です。正確な勤怠管理は、適切な給与計算、コンプライアンスの遵守、そして何より従業員の健康を守るために不可欠です。
働き方の多様化や頻繁な法改正に対応しながら、これらの管理を手作業で行うことには限界があり、多くの手間とリスクを伴います。勤怠管理システムを導入することは、こうした課題を解決し、業務の効率化とコンプライアンス強化を両立させるための有効な手段です。
自社の勤怠管理・労務管理の現状を見直し、より良い労働環境を構築していくことは、従業員の満足度を高め、企業の持続的な成長へとつながります。
ここでは、勤怠管理システムの導入にあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれオススメのシステムを紹介します。
※引用元:キンタイミライ公式HP
(https://kintaimirai.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
「時間帯ごとの要員数」と「人件費予算」を同時に確認しながら、シフトの登録・調整を実施
1ヵ月60時間を超える時間外労働について、代替休暇を取得
指定した起算日に基づき、4週4休のチェックを実施し、必要に応じて休日出勤を割り当て
社会保険・36協定・長時間労働に関して、指定したルールに基づきアラート
振替出勤が発生してから指定期間が経過すると、休日出勤の割増賃金対象の時間数として自動精算
その企業固有の集計方法をきめ細かに設定し、集計を自動化
集計結果を含んだ出勤簿をPDF形式で出力
日々の勤務実績に基づく人件費を計算し、締め日を待たずして人件費を把握可能
従業員のマスタ情報を1ヶ月単位で管理できるほか、CSV形式で一括して取得/編集/登録も可能
社員やバイト、パートといった従業員の属性別にカレンダーを設定できるほか、まるめ・集計機能との連動も可能
登録されたシフトに基づいて、遅刻早退を自動で判定
売上や生産高、処理量などの成果を入力し、その成果と勤務実績を対比させて、折れ線グラフで表示
※引用元:ジョブカン勤怠管理 公式HP
(https://jobcan.ne.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
リアルタイムでスタッフの勤務状況の確認や拠点ごとの勤怠管理が可能
直感的な画面操作で簡単にシフトを申請・作成が可能
出勤管理機能やシフト管理機能と連動し、複雑な休暇管理を簡単に実施
スマホやタブレットでも、打刻・閲覧・各種申請などが可能
スタッフやタスクごとの工数集計やデータ出力・分析が可能
スタッフの勤務状況を自動集することが可能
時間外労働状を一覧で確認でき、36協定超過がある際は自動アラートでお知らせ
画面上の言語は、英語、韓国語、スペイン語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語への切り替えが可能
医療現場の勤務形態に合わせた運用が可能
※引用元:マネーフォワード クラウド勤怠 公式HP
(https://biz.moneyforward.com/attendance/)
タップすると各機能の説明が表示されます
日次勤怠、勤怠確認、分析レポート、拠点別打刻集計、カスタム自動集計(数値集計)
役職階層、ワークフロー経路、申請ワークフロー、代理申請ワークフロー、受信ワークフロー
異動予約(役職)一覧、異動予約(就業ルール)一覧
有給休暇の自動付与、有給休暇付与予定一覧、有給休暇管理簿
不正な打刻・打刻漏れ、許可されていない打刻、無効な勤務パターン
打刻ごとの丸め設定、出勤・退勤・休憩の丸め設定、勤怠項目ごとの丸め設定、日ごと・月ごとの丸め設定、未申請の丸め設定、シフト範囲外打刻の丸め設定
従業員データ、日次勤怠データ、有給休暇利用実績、休暇付与データなどのインポート
従業員データ、月別データ、出勤簿データ、出勤簿データ、1ヶ月のシフト表、時間帯別のシフト表などのエクスポート
シフト管理、操作権限設定、ワークフロー通知、マネーフォワード クラウド給与との連携
※選定基準:
・キンタイミライ:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、本番開発前のプロトタイプ開発および導入後の無料調整を唯一行っているシステムとして選出(2023年5月16日調査時点)。
・ジョブカン勤怠管理:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、必要な機能を選んで価格が決まる製品で、機能が200種類と最も多い (2023年5月16日調査時点)。
・マネーフォワード クラウド勤怠:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、一元管理できるバックオフィス業務のシステムが最も多い(2023年5月16日調査時点)。
ここでは、勤怠管理システムを乗り換えるにあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれどういう基準でシステムを選ぶべきかを解説いたします。
既存のシステムでは自社のルールに合った管理でができておらず、手作業が発生しているなど、今のシステムに課題を抱えている企業もたくさんいらっしゃることでしょう。ホテル、運輸・倉庫、小売り、飲食といった、一般的なオフィスワーカーとは異なる勤務体系の業種に多いようです。
また企業規模が大きくなればなるほど従業員の雇用形態や労働形態が複雑になる上、高いコンプライアンスを求められることから、大企業を中心に既存システムでは対応しきれなくなるケースも散見されます。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「高いカスタマイズ性」を持つ勤怠管理システム。既存システムの機能では解決できない以上、自社仕様に機能を開発/調整してもらうほかありません。
このようなシステムを導入するにあたっては、細かいヒアリングを行った後、エンジニアが機能を調整してくれるため、痒い所に手が届くシステムになるでしょう。その分、既存のシステムよりもコストがかかりますが、従業員規模1,000名~といった大企業であれば 費用感は合うはずです。
機能の充実した勤怠管理システムを入れてはみたものの、運用を始めてみるとあまり使っていない機能があることに気が付くケースです。複雑な機能を用いて厳密に管理を行うというよりかは、選び抜いた機能だけのシンプルで低コストなシステムに乗り換えたいとお考えの中小企業も多いでしょう。
従業員からも、管理者からも直感的に使えないとの声が上がったり、実際にエラーが頻出しているケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「機能を選んでコスパ良く使える」勤怠管理システム。「出勤管理機能」「休日申請機能」だけで良い企業もあれば、「シフト管理機能」も欲しい企業もあるでしょう。
企業の規模や労務管理の方法などによって、欲しい機能は異なるのが普通。機能を厳選することで、従業員にとってもシンプルで使いやすく、経営者にとってもコスパの良いシステムとなるのです。
事業の拡大に伴って従業員は増えるものの、労務管理を行う人数は増えていかず、管理する現場では負担が増える一方。既存のシステムでは勤怠とその他バックオフィスシステムを別々に導入しているため、うまく連携できていないという課題を持つ企業もいらっしゃることでしょう。
ベンチャー企業などにおいては、上場を視野に入れてバックオフィス業務を一気に統制していきたいというケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「バックオフィス業務を一元管理できる」勤怠管理システム。「勤怠管理」だけでなく「給与」「会計」「経費」「人事管理」など、複数のバックオフィスシステムを展開しているシステムから、自社が必要なシステムを組み合わせて乗り換えると良いでしょう。
当然連携することを前提に開発されている為「リアルタイムでの数値同期」などで税理士との連携を行いながら、より効率的にバックオフィス業務を遂行することが可能です。