労働基準法では、労働者が複数の企業で働く場合、それぞれの企業での労働時間を通算して管理することが義務付けられています。これは、労働者の健康確保と過重労働防止を目的とした重要なルールです。
たとえば、A社で6時間、B社で3時間働いた場合、合計9時間の労働時間として扱われます。この通算により、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える部分については、割増賃金の支払い義務が発生します。
副業・兼業が一般化する中、この労働時間通算のルールを正しく理解し、適切に運用することは、企業のコンプライアンス対応として不可欠です。通算を怠ると、法令違反として労働基準監督署から是正勧告を受けるリスクがあります。
労働時間通算の対象となるのは、自社と他社の両方で「労働契約」を結んでいる労働者です。雇用契約に基づく労働であれば、正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず通算の対象となります。
一方、業務委託契約やフリーランスとしての業務は、労働契約ではないため通算対象外です。ただし、実態として指揮命令関係があり、労働者性が認められる場合は、契約形態に関わらず労働時間通算の対象となる可能性があります。
企業は、採用時や副業申請時に、従業員が他社でどのような契約形態で働いているかを確認し、通算対象かどうかを正確に判断する必要があります。
労働時間を通算した結果、法定労働時間を超える労働が発生した場合、原則として「後から労働契約を締結した企業」が割増賃金を支払う義務を負います。つまり、時系列で後に雇用した企業が責任を持つことになります。
例えば、A社で先に雇用され、その後B社で副業を始めた場合、通算して8時間を超える部分の割増賃金はB社が支払います。ただし、この原則は企業間で別途合意があれば変更可能です。
実務上は、どちらが先に雇用したかを証明する必要があるため、副業を認める際には、他社での雇用開始日や労働条件を書面で確認し、記録として保管しておくことが重要です。また、従業員には他社での労働時間を定期的に報告してもらう仕組みを整える必要があります。
副業・兼業者の労働時間通算において最大の課題は、他社での実際の労働時間を正確に把握することの難しさです。従業員からの自己申告に頼るしかなく、リアルタイムでの確認は事実上不可能です。
従業員が他社での残業時間を過少申告したり、申告を忘れたりすると、正確な通算ができません。また、他社での勤務が不規則な場合、月の途中で法定労働時間を超過していることに気づかず、適切な労務管理ができないリスクがあります。
さらに、他社の給与明細や勤怠記録の提出を求めても、個人情報保護や企業間の信頼関係の問題から、従業員が提出を拒否するケースもあります。このような情報の非対称性が、適切な労働時間管理を困難にしています。
自社と他社の労働時間を通算した上で、法定労働時間を超える部分を正確に計算することは、想像以上に複雑です。日ごと、週ごとに通算し、どの時間帯が法定内労働で、どこから法定外労働(残業)になるのかを判定する必要があります。
特に、変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している場合、通算計算はさらに複雑になります。また、深夜労働や休日労働が絡む場合、割増率の適用順序も考慮しなければなりません。
これらの計算を手作業で行うと、膨大な時間がかかるだけでなく、計算ミスのリスクも高まります。副業者が増えれば増えるほど、給与計算担当者の負担は指数関数的に増大します。
労働時間を通算した結果、自社で締結している36協定の上限時間を超過してしまうリスクがあります。他社での労働時間を考慮せずにシフトを組むと、知らないうちに協定違反の状態になっている可能性があります。
また、通算労働時間が過度に長くなると、従業員の健康を損なう恐れがあり、企業の安全配慮義務違反に問われる可能性もあります。過労による健康被害や労災が発生した場合、企業は損害賠償責任を負うリスクがあります。
これらのリスクを回避するには、事前に他社での労働時間を把握し、自社での勤務時間を調整する必要がありますが、実務上は非常に難しい対応となります。
ExcelやGoogle スプレッドシート、あるいは紙の管理簿で副業者の労働時間を管理する場合、従業員からの申告漏れや担当者の入力ミス、計算ミスが発生しやすくなります。
例えば、従業員が他社での残業時間を報告し忘れた場合、通算計算が正しく行われず、本来支払うべき割増賃金が未払いになります。こうした未払いは、後から発覚した際に遡って支払う必要があり、場合によっては付加金の支払いを命じられることもあります。
また、手動での計算は属人化しやすく、担当者の異動や退職により、計算ロジックがブラックボックス化するリスクもあります。新しい担当者が引き継いだ際に、過去の計算ミスが発覚するケースも少なくありません。
労働基準監督署の調査では、副業・兼業者の労働時間通算が適切に行われているかが重点的にチェックされます。具体的には、他社での労働時間の把握方法、通算記録の保管状況、割増賃金の計算根拠などが確認対象となります。
特に指摘されやすいのは、通算の事実はあるものの記録が不十分なケース、従業員の自己申告のみで客観的な確認を行っていないケース、通算計算の方法が不明確なケースなどです。
是正勧告を受けると、過去に遡って未払い賃金の支払いを求められるだけでなく、企業名の公表や刑事罰のリスクもあります。手動管理では、こうした調査に耐えうる証拠書類を整備することが困難です。
多くの勤怠管理システムには、自社での勤務時間とは別に「外部勤務」や「他社勤務」として労働時間を入力できる機能が搭載されています。従業員が他社での勤務時間を自ら入力し、システム上で自動的に通算計算が行われる仕組みです。
この機能により、給与計算担当者が手動で通算計算をする必要がなくなり、計算ミスのリスクが大幅に削減されます。また、入力された他社勤務時間はデータベースに記録されるため、後から確認が必要になった際にも容易に参照できます。
システムによっては、従業員が他社の給与明細や勤怠記録をアップロードできる機能もあり、申告内容の証拠保全にも役立ちます。こうした機能を活用することで、労働基準監督署の調査にも対応しやすくなります。
勤怠管理システムの中には、自社と他社の労働時間を通算した結果、法定労働時間や36協定の上限に近づいた際に、自動的にアラートを発する機能を持つものがあります。
例えば、通算労働時間が1日8時間に達する前に、管理者や本人にメール通知が届く設定が可能です。これにより、事前に残業を抑制したり、翌日以降のシフト調整を行ったりすることができます。
アラート機能は、36協定違反や過重労働の予防に非常に有効です。リアルタイムで状況を把握できるため、問題が深刻化する前に対処できます。また、従業員自身も自分の労働時間を意識しやすくなり、健康管理の意識向上にもつながります。
厚生労働省は、副業・兼業の労働時間管理について「簡便な管理モデル」を示しています。これは、自社と他社であらかじめ上限時間を設定し、それぞれが設定範囲内で働く限り、詳細な通算計算を省略できるという仕組みです。
一部の勤怠管理システムでは、この簡便な管理モデルに対応した機能を提供しています。自社での労働時間上限を設定し、その範囲内で勤務している限り、他社での詳細な労働時間を日々確認する必要がなくなります。
この方法は、特に副業者が多い企業や、他社での労働時間の把握が困難な場合に有効です。ただし、上限設定や労使合意など、導入には一定の条件があるため、システムが適切にサポートしているかを確認する必要があります。
副業者の労働時間管理を成功させるには、従業員が他社での勤務時間を正確かつ継続的に入力してくれることが不可欠です。そのためには、入力画面が直感的で分かりやすく、スマートフォンからでも簡単に入力できることが重要です。
複雑な操作が必要だったり、入力項目が多すぎたりすると、従業員の負担となり、申告漏れや不正確な入力につながります。シンプルなUI/UXで、数タップで入力が完了するようなシステムを選ぶべきです。
また、入力忘れを防ぐためのリマインド機能や、過去の入力内容を参照しながら簡単にコピーできる機能なども、実用性を高める上で重要なポイントです。デモ版やトライアル期間を活用し、実際の従業員に使ってもらって評価することをお勧めします。
企業によっては、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制など、多様な勤務形態を採用している場合があります。副業・兼業の労働時間通算を行う際、これらの複雑な勤務形態にも正確に対応できるシステムを選ぶ必要があります。
例えば、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用している場合、週単位や月単位での通算計算が必要になります。また、フレックスタイム制の場合、清算期間内での総労働時間の通算が求められます。
システムがこれらの制度に対応していないと、結局手動での補正計算が必要になり、システム導入のメリットが半減してしまいます。導入前に、自社の勤務形態を詳しく伝え、システムが適切に対応できるかを確認することが重要です。
【抱えている課題別比較】
自社にあった
おすすめの勤怠管理
システムの選び方
副業・兼業者の労働時間通算は、法令で定められた企業の義務であり、適切に対応しなければ法令違反や未払い賃金のリスクを招きます。しかし、他社での労働時間の把握の難しさ、複雑な割増賃金計算、36協定違反のリスクなど、実務上の課題は多岐にわたります。
Excelや手書きによる手動管理では、申告漏れや計算ミスが発生しやすく、労働基準監督署の調査にも十分に対応できません。こうした課題を解決するには、副業・兼業に対応した勤怠管理システムの導入が不可欠です。
システム選定においては、他社勤務時間の入力・集計機能、通算時間に基づくアラート機能、簡便な管理モデルへの対応といった機能面の確認に加え、従業員が使いやすいインターフェースであること、自社の複雑な勤務形態に対応できることが重要なポイントとなります。
適切なシステムを導入し、副業者の労働時間を正確に管理することで、コンプライアンスを確保しながら、柔軟な働き方を支援できる体制を構築しましょう。
ここでは、勤怠管理システムの導入にあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれオススメのシステムを紹介します。
※引用元:キンタイミライ公式HP
(https://kintaimirai.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
「時間帯ごとの要員数」と「人件費予算」を同時に確認しながら、シフトの登録・調整を実施
1ヵ月60時間を超える時間外労働について、代替休暇を取得
指定した起算日に基づき、4週4休のチェックを実施し、必要に応じて休日出勤を割り当て
社会保険・36協定・長時間労働に関して、指定したルールに基づきアラート
振替出勤が発生してから指定期間が経過すると、休日出勤の割増賃金対象の時間数として自動精算
その企業固有の集計方法をきめ細かに設定し、集計を自動化
集計結果を含んだ出勤簿をPDF形式で出力
日々の勤務実績に基づく人件費を計算し、締め日を待たずして人件費を把握可能
従業員のマスタ情報を1ヶ月単位で管理できるほか、CSV形式で一括して取得/編集/登録も可能
社員やバイト、パートといった従業員の属性別にカレンダーを設定できるほか、まるめ・集計機能との連動も可能
登録されたシフトに基づいて、遅刻早退を自動で判定
売上や生産高、処理量などの成果を入力し、その成果と勤務実績を対比させて、折れ線グラフで表示
※引用元:ジョブカン勤怠管理 公式HP
(https://jobcan.ne.jp/)
タップすると各機能の説明が表示されます
リアルタイムでスタッフの勤務状況の確認や拠点ごとの勤怠管理が可能
直感的な画面操作で簡単にシフトを申請・作成が可能
出勤管理機能やシフト管理機能と連動し、複雑な休暇管理を簡単に実施
スマホやタブレットでも、打刻・閲覧・各種申請などが可能
スタッフやタスクごとの工数集計やデータ出力・分析が可能
スタッフの勤務状況を自動集することが可能
時間外労働状を一覧で確認でき、36協定超過がある際は自動アラートでお知らせ
画面上の言語は、英語、韓国語、スペイン語、タイ語、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語への切り替えが可能
医療現場の勤務形態に合わせた運用が可能
※引用元:マネーフォワード クラウド勤怠 公式HP
(https://biz.moneyforward.com/attendance/)
タップすると各機能の説明が表示されます
日次勤怠、勤怠確認、分析レポート、拠点別打刻集計、カスタム自動集計(数値集計)
役職階層、ワークフロー経路、申請ワークフロー、代理申請ワークフロー、受信ワークフロー
異動予約(役職)一覧、異動予約(就業ルール)一覧
有給休暇の自動付与、有給休暇付与予定一覧、有給休暇管理簿
不正な打刻・打刻漏れ、許可されていない打刻、無効な勤務パターン
打刻ごとの丸め設定、出勤・退勤・休憩の丸め設定、勤怠項目ごとの丸め設定、日ごと・月ごとの丸め設定、未申請の丸め設定、シフト範囲外打刻の丸め設定
従業員データ、日次勤怠データ、有給休暇利用実績、休暇付与データなどのインポート
従業員データ、月別データ、出勤簿データ、出勤簿データ、1ヶ月のシフト表、時間帯別のシフト表などのエクスポート
シフト管理、操作権限設定、ワークフロー通知、マネーフォワード クラウド給与との連携
※選定基準:
・キンタイミライ:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、本番開発前のプロトタイプ開発および導入後の無料調整を唯一行っているシステムとして選出(2023年5月16日調査時点)。
・ジョブカン勤怠管理:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、必要な機能を選んで価格が決まる製品で、機能が200種類と最も多い (2023年5月16日調査時点)。
・マネーフォワード クラウド勤怠:Google検索「勤怠管理システム」でヒットした55製品の内、一元管理できるバックオフィス業務のシステムが最も多い(2023年5月16日調査時点)。
ここでは、勤怠管理システムを乗り換えるにあたってよくある3つの課題ごとに、それぞれどういう基準でシステムを選ぶべきかを解説いたします。
既存のシステムでは自社のルールに合った管理でができておらず、手作業が発生しているなど、今のシステムに課題を抱えている企業もたくさんいらっしゃることでしょう。ホテル、運輸・倉庫、小売り、飲食といった、一般的なオフィスワーカーとは異なる勤務体系の業種に多いようです。
また企業規模が大きくなればなるほど従業員の雇用形態や労働形態が複雑になる上、高いコンプライアンスを求められることから、大企業を中心に既存システムでは対応しきれなくなるケースも散見されます。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「高いカスタマイズ性」を持つ勤怠管理システム。既存システムの機能では解決できない以上、自社仕様に機能を開発/調整してもらうほかありません。
このようなシステムを導入するにあたっては、細かいヒアリングを行った後、エンジニアが機能を調整してくれるため、痒い所に手が届くシステムになるでしょう。その分、既存のシステムよりもコストがかかりますが、従業員規模1,000名~といった大企業であれば 費用感は合うはずです。
機能の充実した勤怠管理システムを入れてはみたものの、運用を始めてみるとあまり使っていない機能があることに気が付くケースです。複雑な機能を用いて厳密に管理を行うというよりかは、選び抜いた機能だけのシンプルで低コストなシステムに乗り換えたいとお考えの中小企業も多いでしょう。
従業員からも、管理者からも直感的に使えないとの声が上がったり、実際にエラーが頻出しているケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「機能を選んでコスパ良く使える」勤怠管理システム。「出勤管理機能」「休日申請機能」だけで良い企業もあれば、「シフト管理機能」も欲しい企業もあるでしょう。
企業の規模や労務管理の方法などによって、欲しい機能は異なるのが普通。機能を厳選することで、従業員にとってもシンプルで使いやすく、経営者にとってもコスパの良いシステムとなるのです。
事業の拡大に伴って従業員は増えるものの、労務管理を行う人数は増えていかず、管理する現場では負担が増える一方。既存のシステムでは勤怠とその他バックオフィスシステムを別々に導入しているため、うまく連携できていないという課題を持つ企業もいらっしゃることでしょう。
ベンチャー企業などにおいては、上場を視野に入れてバックオフィス業務を一気に統制していきたいというケースもあるようです。
上記のような課題を抱えている企業に必要なのは、「バックオフィス業務を一元管理できる」勤怠管理システム。「勤怠管理」だけでなく「給与」「会計」「経費」「人事管理」など、複数のバックオフィスシステムを展開しているシステムから、自社が必要なシステムを組み合わせて乗り換えると良いでしょう。
当然連携することを前提に開発されている為「リアルタイムでの数値同期」などで税理士との連携を行いながら、より効率的にバックオフィス業務を遂行することが可能です。